時代に咲いた花 2018.11

石井桃子(上)

子供たちに最良の本を届けようと
児童文学の発展に努めた女性文学者

 子どもたちよ 
 子ども時代を しっかりと
 たのしんでください。
 おとなになってから 
 老人になってから 
 あなたを支えてくれるのは
 子ども時代の「あなた」です。
 
 子供たちに読書を通して生きる喜びを与え、豊かな人間性を持った大人に育ってほしいと願い続けた石井桃子。『クマのプーさん』や『ピーターラビット』、『うさこちゃん』シリーズなど、誰もが一度は手にした外国の絵本の翻訳者として知られていますが、編集者、また作家としても活躍し、101歳で亡くなるまで、200冊以上の子供の本を世に出しています。
 子供たちに本が身近でなかった時代、最良の文学を届けるために努力し続けた児童文学者の知られざる人生とは──。
 明治40(1907)年3月10日、現在の埼玉県浦和(現・さいたま市)に石井桃子は生まれました。兄ひとり、姉4人の6人きょうだいの末っ子で、祖父
母、父のいとこも同居する大家族で育ちます。父福太郎は小学校の教師を経て、友人らと興した銀行で支配人を務めた気骨のある人で、母なをも朝から晩まで愚痴一つこぼさず、家事や祖父が営む金物店を切り盛りする働き者でした。
 幼い桃子の人格形成に大きな影響を与えたのが大黒柱だった祖父です。進取の気性に富み、自由で器の大きかった祖父は茶目っ気もあり、色白の桃子を「たまご」と呼んで可愛がりました。昔話を語らせたら右に出る者なしで、桃子が4歳のときに亡くなりますが、祖父の語り口を受け継いだ姉たちが、「かちかち山」や「さるかに合戦」などを面白おかしく聞かせてくれ、桃子は小さな身体に言葉のリズムを沁み込ませました。
 また四季折々の庭──光り輝く雪景色、枝を包み込むように咲くアンズの花、大きな桐の花のあまい匂い……季節の美しさや移ろいを五感で感じながら美意識を育んだのです。
 

※続きは2018年11月号本誌にて。
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