時代に咲いた花 2018.04

大石順教(下)

カナリヤを見て口で筆を使うことを思い付き
後半生は出家得度し障害者の福祉に専念した

 世間を震撼させた大阪「堀江廓六人斬」で両腕を失った17歳の妻吉(後の大石順教)。その日を境に舞妓の生活が終わった彼女の元に、寄席や芝居小屋から声がかかります。兄は「妹を見世物にはせん」と頑張りましたが、両親を養うため寄席に出ることを決意。
 両手がないので舞は踊れず、長唄と小唄で高座に上がるのですが、売り物はもっぱら「六人斬りの生き残り」です。そうと知りながら、涙を呑んで舞台に立ち続けました。
 人の視線に慣れても、見世物に落ちるまいと、好奇の目、同情の声を浴びながら、懸命に芸を磨き、やがて松川家妻吉と名乗り、一座を組んで地方巡業に出ます。
 旅の最中、思いがけない人物から手紙が届きます。獄屋で死刑を待つ中川万次郎からで、この世を去る前に一目会って詫びたいと綴られていました。自分を教育し、4年間育ててくれた恩師に変わりないのだから、死に行く義父に慰めの言葉をかけてあげたい。妻吉は反対する両親を説得し、兄と共に獄屋を訪ね、自分を斬った張本人と対面します。そして詫びる万次郎に、「お義父さんを怨んだりしまへん。死にはったら骨を拾って必ず供養します」と約束し、「これからは気の毒な他人様のためになることをしていきたい」と告げるのでした。
 言葉通り、事件の翌年には堀江事件犠牲者の一周忌法要をいとなみ、万次郎亡き後、松川家妻吉の名で墓を建て、加害者の霊を弔ったのです。〝罪を憎んで人を憎まず〟といいますが、その罪さえも赦して…。
 
※続きは2018年4月号本誌にて。
readlink

関連記事

カテゴリー

ページ上部へ戻る