友好の橋 2017.11

ドイツ連邦共和国 Federal Republic of Germany

弓道で禅の世界を究めたオイゲン・ヘリゲル

故スティーブ・ジョブズ生涯の愛読書『弓と禅』を著した哲学者

世界企業アップルの故スティーブ・ジョブズは、若いころから禅に傾倒し、一時は日本の禅寺で修行僧になろうと考えていたこともあったそうです。そんなジョブズが生涯の愛読書としていたのが『弓と禅』でした。

★西洋人の論理的な思考を否定される

 この本の著者、オイゲン・ヘリゲル(1884─1955)は、ドイツ新カント派の哲学者です。彼は、大正時代に東北帝国大学の要請で哲学の教鞭を執るために来日。せっかく日本に来たのだから日本文化の神髄に触れようと妻に生け花を習わせ、自身は弓道を習おうと弓の達人、阿波研造(あわけんぞう)に師事しました。
 ところが、理屈が先行し、頭で理解することができなければ納得できない西洋人の思考と方法論は、弓道の師によってことごとく否定され、打ち負かされ、ついには論理の限界を超越してしまいます。「的を狙うな」「弓は腕力でなく心で引け」「矢を自らの意志で放すな。それが放すまで待て」「自分自身から離脱しなさい」等々。禅は一種の神秘主義であり、体験して初めて理解できる、論理では理解できない世界ですから無理もありません。
 『弓と禅』には、ヘリゲルがどのような過程を経て弓道の神髄を体得していったかということが記されています。たとえば、阿波師範から夜中の道場に来るように言われたヘリゲルは、そこで師が真っ暗闇のなか矢を放ち、見事に的を射ぬくのを目撃します。次に矢を放つとなんと最初の矢を真っ二つに引き裂いて、的の中心を射ていた……。

★帰国後の講演を書き起こして一冊に

 四苦八苦しながら、ヘリゲルは4年以上もの修行を経て次第に「無心」で射ることを体得し、ついには五段の免状を受けてドイツに帰国します。帰国後、ナチス政権下でエアランゲン大学の教授となり、1936年、日本での体験をもとに「騎士的な弓術」と題して講演をしました。後に、この講演を書き起こした『弓と禅』(福村出版)『無我と無私』(ランダムハウス講談社)など、さまざまな本が出版されています。
 ヘリゲルは今日、日本文化の紹介者として知られ、彼の『弓と禅』は日本研究には欠かせない一冊となっています。スティーブ・ジョブズの愛読書としても近年、再び注目されています。ナチス政権下で大学人として成功したため、晩年、苦難の日々を過ごしますが、そのなかで精神的なよりどころとなったのは武士道の書である『葉隠』だったそうです。

※詳細は2017年11月号本誌にて。
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