座標軸 2019.08

向野幾世 奈良大学元講師

夾竹桃の教え

向野幾世 奈良大学元講師

 夾竹桃花なき墓を洗ひをり   石田波郷

 真夏の陽射しは、もうお盆の季節である。子供の頃、手伝いの一つに仏様の花の水換えとお花供えがあった。庭に咲いている花を切ったり手折ったりして適当に揃え、緑の葉を添えてお供えするのは好きな仕事だった。見よう見まねでやっていたのだが、今にして思うとちゃんと格好がついていたのだろうか。
 ある夏、その花もなく、花といえば庭の端に枝を張った大きな夾竹桃の木だけである。枝先に淡い紅色の花がいっぱい咲いている。ほんのりいい香りもする。しかし、それは子供には余りにも高いところにある。
 棒切れを手にして枝をうんとしならせ手繰りつつ、花を引き寄せたまではよかったが、その枝はポキッと折れるものではなかった。折れ口から樹皮が剥がれない。仕方がないので口で噛み切って引きちぎった。白い樹液が出て苦かったが、ようやく一枝を手に入れることができた。難儀の末の花だけに誇らしかった。

※続きは2019年8月号本誌にて。
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