座標軸 2019.06

向野幾世 奈良大学元講師

母よ嘆くなかれ

向野幾世 奈良大学元講師

 このところ、ずうっと心にかかって離れないことがある。昨年の暮れ「年が明けたら、おばあちゃんになります」という喜びの報告をかねて一家で顔をみせてくれた知人のこと。
 その時の一行は知人夫婦と新婚の息子夫婦。結婚のご縁がゆっくりとしていて新婚とはいえ40代と30代後半のお二人は幸せそのもの。というのも、あと数カ月後の出産をひかえてか、こぼれんばかりのお腹だった。その日の幸せ記念にわが家の一同も加わり、まだ見ぬ赤ちゃんも加えて10人が写真におさまった。
 年が明け、知人から封書が届いた。「息子夫婦に男の子が授かりました。9カ月2200グラムの誕生です。ダウン症のお宝をいただいています」と。
 一瞬、思考が止まってしまった。すぐには返信できなかった。長い間、障害児と共に生きてきた、障害をもつ親子の相談もして来た私にしては、あまりにも足元すぎることだった。ようやく、パール・バックの言葉を借りつつ返信した。
 「わが子が何年経っても、子供のままであるということを知った時、私の胸をついて出た最初の叫び声は“どうしてこの私がこんな目にあわなくてはならないの”、避けることのできない悲しみを前にして人は誰もが昔から幾度となく発して来た叫び声だったのです」(パール・バック著『母よ嘆くなかれ』)

 

※続きは2019年6月号本誌にて。
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