座標軸 2018.02

向野幾世 奈良大学元講師

お先にどうぞ

 又一つ病身に添う春寒し  松本たかし

 「自未得度先度他」。曹洞宗祖道元禅師の著書に出てくることば。意味は〝自分より先に他人を涅槃の彼岸に渡そうとする心〟で、つまり、自分の幸せより他人の幸せを先にする心だと教わった。おまじないの言葉のように覚えてしまったが、要は「お先にどうぞ」という心でもある。
 先日、鬼の霍乱がわが身におきた。歩けなくなったのだ。その日、早朝の新幹線で上京、就寝までまる一日座位姿勢の日があり、翌朝歩こうとすると右足に痛みが走る。
 「ん?」「なんてことない」と思いはするが歩けない。日頃健康だけが取り柄の私にして、座っていただけで足が痛むなどということは、甘え以外の何ものでもない。「こんなもの」と思って歩こうとするが、痛い。一晩寝ればよくなるだろう。
 しかし、翌朝も歩くと痛い。びっこをひき、机に支えられて食事の用意はするものの、あまりに哀れな母の姿に息子は「軽く考えると本当に歩けなくなるよ」と、医者嫌いの母の性質を知りつつ心配してくれる。

※続きは2018年2月号本誌にて。
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