座標軸 2017.10

向野幾世 奈良大学元講師

食卓に座ると

曼珠沙華忘れゐるとも野に赤し  野沢節子

 早朝秋の気配がうれしくて、庭に出ると唐突に1本曼珠沙華が咲いていた。例年3本咲くことは知っていたが、昨年末、新しい庭師さんが手を入れたこともあり、場所を変えていた。

 たのしみは朝おきいでて昨日まで
 無かりし花の咲ける見る時

 平成6年、天皇皇后両陛下がアメリカ訪問の折、時の大統領ビル・クリントン氏が歓迎の挨拶の中で
「私は橘曙覧(たちばなのあけみ)という歌人が好きです」と言って、この一首をスピーチしたとか。
 200年も前の歌人の歌を外国の大統領が披露したことにも驚いたが、唐突さに驚く心境は国も時代も変わらないようだ。ついでに、この歌の出典を調べてみた。江戸時代末、越前の国で活躍した橘曙覧は「たのしみは…」で始まる52首の歌を「独楽吟」に集めていた。暮らし向きは貧しいのだが、何とも温かい歌ばかり。

※続きは2017年10月号本誌にて。
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