座標軸 2017.07

向野幾世 奈良大学元講師

いのちなりけり

 玄関の下駄箱の上の虫籠はテントウ虫、カタツムリ、トンボと日替わりでにぎやかだ。去年の夏からは金魚鉢も加わった。地蔵盆の縁日で、孫がすくいあげた小さな赤い金魚と黒いデメ金。おっとりした孫の手にかかったくらいだから、よっぽどとんまな金魚だと家中が可愛がった。
 父である息子は、高校時代、生物部長とあって金魚草を入れ酸素をおくる水槽を用意した。水換えや底砂の掃除、エサやりと家中で世話をしていた。にもかかわらず、暖かくなる頃、水カビ病とかで金魚は弱っていった。息子は金魚用の薬を求めて来たけれど、ある朝、金魚はポッカリと浮いてしまった。
 金魚が家に来て10カ月。孫たちの哀しむこと。庭先の土に埋めることになった。小さな掌に鎮まった金魚のむくろ。4歳の孫は土の上に金魚を置こうとはしない。傍らのアジサイの葉っぱを下に敷きそっと寝かせた。しばらくためらってまた1枚、むくろの上に。緑の葉に包まれて赤い金魚は葬られた。ツーンと鼻の奥に走るものがあった。 

※続きは2017年7月号本誌にて。
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