座標軸 2016.03

 向野幾世 奈良大学元講師

がんばるから見てて

 春風や 闘志いだきて 丘に立つ  虚子

 一葉の写真がある。東日本大震災直後の報道写真。がれきの中、口を引き結んで水を運ぶ少年の姿、気仙沼市松本魁翔君だ。少年は気仙沼市で被災した。津波で自宅が壊され、母、姉、妹と仮設住宅で暮らす。断水の続く中、何往復もして大きなペットボトルで生活用水を運ぶ。母子家庭で男手が足りないからと水くみをかって出たのだった。
 後日、この報道写真を俳優の高倉健さんが台本に貼りつけて持ち歩いていたことを知った。「常に被災地を忘れないことを心に刻もうと撮影にのぞんでいました」「遠くから貴方の成長を見守っています」と。しかし、マスコミに取り上
げられ、騒がれることは魁翔君のためにならないから、公にしないことを「男と男の約束だ」とした。〝見ていてくれる人がいる〟ということは生きる力になる。「頑張るから見てて」と少年は心に誓った。

※続きは2016年3月号本誌にて。
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