座標軸 2015.12

 向野幾世 元奈良大学講師

幼きはゆず湯の柚子を胸に抱き

どんなご縁だったか、岡山の田舎にある佛教寺というところで話をしたことがある。お寺とのご縁は夫が亡くなってからだから10年は優にすぎる。
 お寺までの道すがら、刈りとられた畑に金黄色の物が積まれていた。時間にゆとりがあったので、畑に足を入れ、その一つを手にとった。たなごころ掌に強い香りをうつして弾けた。柚子だった。捨てられた柚子の山から痛みの少ないものを一つ手にしてお寺にむかった。
 門前に住職さんが迎えてくださり、「柚子はお好きですか」と聞かれたので、「関わっている障害児施設が味噌づくりをしていて、ゆず味噌も試みています」と話した。そのときはそれだけのご縁だった。
 柚一つ供えて寒し像の前
           高浜虚子
 そして1年後の年の暮れ、段ボール一杯の柚子が送られて来てびっくりした。あの佛教寺さんからだった。その多さにも驚いたが、施設のことを覚えていてくださったことに感動した。それから毎年、冬至のころになると柚子が届けられ、やがてゆず味噌は授産品として定着するまでになった。

※続きは2015年12月号本誌にて。
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