座標軸 2015.10

向野幾世 元奈良大学講師

もずが枯木でないている

 薬師寺と唐招提寺を鵙渡る
             前田普羅 
 
 私の家はこの二つの寺を結んで西大寺に続く道のなかほどにある。道筋には昔ながらの家が建ち並んでいる。この時期、農家の大木にも、キィキキキキと甲高いモズの声。その声は胸に鋭く刺さり、思いがけない過去を甦らせる。
 大学に入学して初めての帰省の夏、故郷の図書館で展覧会があった。見終わって帰りがけに手伝って貰えないかと頼まれ、気軽く引きうけた。役に立った喜びで意気揚々と帰ったところ、母から「もう図書館に行っては駄目です。あれはアカの人たちの催し物らしいから」と言われた。母が誰から何を聞いたのか分からず、言葉の意味も背景も知らないまま図書館行きは止めた。
 代わりに母が段取りをしてくれた瀬戸内海の島にある障害児施設のお手伝いに行った。若い日々、何ごとにも疎く世間知らずな私だった。後日、あの展覧会が丸木位里・俊夫妻による「原爆の図展」だったと知った。一日だけだったが、展覧会に関わって原爆の怖さは心にも目にも焼きついた。 

※続きは2015年10月号本誌にて。
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