座標軸 2015.06

向野幾世 元奈良大学講師

さまざまなこと思い出す一日

 ながく生きているとこんな事もあるのか。60年もの歳月を経て、なんと孫娘が母校の大学に入学した。
 息子から「入学式に出席しないか」と誘われ、親ならともかく祖母まで行くことはないと固辞したが、「二度とないことだから」と結局出席した。会場には、父母に混じって祖父母の姿も多く、少子化時代を改めて実感した。かねてから母校の学生は地味と言われてきたが、黒のスーツ姿できめた女子学生は初々しく美しい。
 60年前、巷では「女に学問はいらない」という風潮が支配的で、くわえて実家は貧乏だし、進学どころではなかったのに、家出同然にやって来た。せめてはと母が叔父の洋服を裏返して手作りのスーツを用意してくれた。男縞の布地でポケットは右側になっていて恥ずかしかったが、結局は着たきりすずめを通すほかなかった。
 当時の入学式は、いまは重要文化財になっている木造の講堂で行なわれ、みごとなシャンデリアにびっくりした。時の学長さんは落合太郎氏(故人)。豊かな白髪と彫りの深い顔立ちは故郷ではおよそ見たこともない威厳を放っていた。後に知るのだが、フランス文学、とりわけモンテニューの研究者だった。・・・

※続きは2015年6月号にて。
readlink

関連記事

カテゴリー

ページ上部へ戻る